来 歴


ふしあわせな夏


らせんの空にのぼりつめた
まっかな欲望の太陽が
草のつるとからみあったまま
熱いトタン屋根へかけあがるときだ

長いひでりのあげく
枯れた魂に火がついて
みのりはじめた農園の境界を
はしからはしまで焼きつくすときだ

土ほこりのスクリーンの裏側から
不吉な鳥の羽が降ってくるたびに
誰は溺れて誰は助かったと
見えない川がつぶやいて行くときだ

心の村と村を斜めに駆けぬけて
神の不在を確かめるかわりに
思いきり陽気な祭りの唄を
身をよじって空に吐きつづけるときだ
無数のくらい小さな目が
てんてんとはりついている大地から
ゆうべの悪夢の破片を
ひとつ残らず拾いあげるときだ

しかしこれも夢のはてなのか
まだ遠すぎてここからは見えない
深い存在の崖っぷちまで
不思議に鮮明な標識が立ち並ぶときだ

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